【今日の論文】Globigerinoides属の分類

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【内容】

Globigerinoidesは、熱帯あら亜熱帯に分布する浮遊性有孔虫を代表する属である。

d'Orbigny (ドービーニー)によってGlobigerina rubraが1839年命名された。

G. ruber の典型的な形態>G. ruber sensu stricto (s.s.)

G. elongatus, G.pyramidalis > G. ruber sensu lato (s.l.) 

として区別されるようになったが、Darling et al.らのRNAの研究らによってs.s.とs.l. の形態的な違いが、遺伝子上の違いと一致するという見方が広まっていった。

 

本研究では、Globigerinoides属について、DNAから遺伝情報、CTから形態情報を得ることで、遺伝子上の違いが形態の違いにどのように分類されるかを検討する。

 

※一個体の浮遊性有孔虫からDNAを抽出する手法は、Weiner et al. 2016に倣う。

 

ここでは、G. ruber albus (遺伝子型としては、Ⅰb 2に相当) という亜種を一つだけ提案している。albus は、ラテン語で白の意味。現在、太平洋では絶滅し大西洋のみに分布しているG. ruberのピンクタイプに、G. ruber ruber の亜種を名づけている。というのも、G. elongatus(s.l.)とG.tenellus の距離よりも、G. ruberのピンクと白の方が遺伝的な距離が遠いため、本当は分けたくないけど、分類上は分けなければならないということのようだ。しかし、ピンクと白は、形態的には似通っていて、特徴は色の違いでしかないので、色が消えてしまう750kaよりも前の時代には、両者は同じになる。そういう意味でも、G.ruberの一種の中に入るので、亜種とすることで妥協するという感じ。

G. ruber albus(白)とG. ruber ruber(ピンク)をs.s.としG.elongatus をs.l. とすることで良さそうです。

 

 

 

 

 

Clumped isotope vs Mg/Ca

Breitenbach, S. F. M., Mleneck-Vautravers, M. J., Grauel, A.-L., Lo, L., Bernasconi, S. M., Müller, I. A., et al. (2018). Coupled Mg/Ca and clumped isotope analyses of foraminifera provide consistent water temperatures. Geochimica Et Cosmochimica Acta, 236, 283–296. http://doi.org/10.1016/j.gca.2018.03.010

 

Clumped isotope とM/gCaの比較。Clumpled isotopeはイギリス、ケンブリッジのLaboで測っている。浮遊性8種について、コアトップの同じサンプルを使って両方の手法を試している。還元処理はしていない。

Globigerina bulloides, Globigerinoides sacculifer, Globorotalia hirsuta, Globorotalia
inflata, Globorotalia menardii, Neogloboquadrina dutertrei, Neogloboquadrina pachyderma (s), and Orbulina univers

 

Mg/CaとΔ47でXYプロットすると、Mg/Caの種ごとの換算式よりElderfiled and Gassen の統合した式の方が相関が良い。ただし、それぞれのエラーはMg/Caで1℃、Δ47で2℃である。

 

感想:

海洋中のMg/Caを考慮しなければならない古い時代だと、この方法の方が信頼できそうだが、第四紀の場合は海域ごと、または種ごとの換算式を使う方がうまくいく気がしている。沿岸域は塩分影響も無視できないかもしれない。

日本中部地方の鍾乳石のd18O

2週間前、Arizona 大学の Jay Quadeさんがブラウン大学セミナーで話したときに、この論文の話題になった。

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Temperature and seawater isotopic controls on two stalagmite records since 83 ka from maritime Japan
Mori et al. Quaternary Science Reviews 192 (2018)

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日本、中部地方(岐阜と三重)の2つの鍾乳洞からのd18Oの話。
鍾乳洞付近の降水とd18Oの相関はない。
したがって、温度と海からの距離でd18Oが解釈される。

結果は、Heinrich はきれいに出るが、DOはそれほど目立たない。
また、振幅も、中国に比べると小さい。
気温変化だとすると、Heinrichは3度の変化になる。

中国鍾乳石の解釈、モデルから

引き続き、鍾乳石のd18Oの解釈を再考する論文。
2014年発行でHai Chengも共著者だ。Yongjin Wang も入っているところからも、中国鍾乳石グループの解釈としては、その場の降水ではなくこの結論のmonsoon windあるいは北部の降水、(降水のd18O)ということだろう。

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Chinese cave records and the East Asia Summer Monsoon
Zhengyu Liu et al. Quaternary Science Reviews 83 (2014) 115-128

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最終氷期から完新世にかけての鍾乳石の解釈を目的としてisotope-enabled atmospheric component model of the CCSM3 CAM3を使って実験。

LGMから現在までのシミュレーション結果がでている。H1, BA, YDの傾向はモデルで得られたd18Oの値と実際とが同じだが、振幅が違うことを解決できていない。また、変動のタイミングもずいぶん違う。

ここでも降水の、北部と南部の違いについて議論されていて、H1は北部が乾燥、南部はあまり変化なし、という解釈がなされている。

また後ほどとりあげるが、同じ東アジアモンスーン地域でも中国の鍾乳石がやたらと振幅が大きい。日本の鍾乳石はそうではない。海岸からどれだけ近いかということが重要だということのようだ。日本と中国ではそもそも水蒸気源が違う。

Deglaciaitonの中国鍾乳石の解釈

1ヶ月前のScienceから

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Zhang et al., Science 362, 580–583 (2018)
East Asian hydroclimate modulated by the position of the westerlies during Termination I

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ハインリッヒ1(H1)とヤンガードリアス(YD)での中国鍾乳石のd18Oを解釈するために、trace elementを分析。
Cave siteは、Upper Yangtze なので、現在の降水のサンドイッチ構造の真ん中、長江集水域に入っている。
驚きなのは、trace elementからは、H1とYDにどちらかというと湿潤になっているということ。それを、鍾乳石d18Oとどう折り合いをつけるか。
簡単に言ってしまえば、鍾乳石d18Oは北部、TEはその場の降水(長江集水域を含めた南部)を表していて、モデルとも整合的だからいいですよね、ということ。

ただし、いくつか問題はあると思う。

1. trace elementと湿潤乾燥の関係が、この論文のように単純なのか。例えば、温度の効果などはどのように解釈に加えるのか?

2. シミュレーションで、7−8月の降水アノマリを出しているが、長江集水域〜 日本にかけては、現在では6月から梅雨が始まるので、7-8月だけを抜き出した図がふさわしいかどうか。Fig3では、5-6月は減っているが、7-8月は増えている。差し引きすると、梅雨全体の降雨アノマリはほとんどなくなるのではないか?

3. この論文のポイントは、中国内、あるいは東アジアモンスーン地域内での地域内パターンの不均一性と、南部は北部よりも降水変動が少ないのでは?という2点に尽きると思う。d18Oの解釈が、その場の降雨量ではなく、降水のd18O>さらに北部がそれに敏感、というのは、時間スケールによってはそうとも言えると思う。それ以外はさらなる検証が必要だと思う。d18Oが北部の降水を表すにしても、23kyのみの卓越は、レスの記録とは整合的ではない。

底生有孔虫図鑑

後輩から、有孔虫の図鑑は何がおすすめですかと聞かれた。

それほど図鑑は多くないが、底生有孔虫(大型以外)で写真が多くて網羅的なものという意味でおすすめは、以下の2つ。
どちらの著者も、この分野の第一人者である。他にも図鑑をいろいろ集めいているが、実際に参考にするのはこの2つ。ただし、よく使うCibicides, Cibicidoidesの属の分け方が違うので注意。Uvigerinaもちょっと違うかな。

1. Atlas of Benthic Foraminifera
Author(s): Ann Holbourn Andrew S. Henderson Norman MacLeod
First published:2 May 2013
Print ISBN:9781118389805 |Online ISBN:9781118452493 |DOI:10.1002/9781118452493
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/book/10.1002/9781118452493

2. Recent New Zealand deep-water benthic foraminifera : taxonomy, ecologic distribution, biogeography, and use in paleoenvironmental assessment.
Hayward, B.W.; Grenfell, H.R.; Sabaa, A.T.; Neil, H.L.; Buzas, M.A. 2010 Lower Hutt: GNS Science. GNS Science monograph 26; New Zealand Geological Survey paleontological bulletin 77 363 p.
http://shop.gns.cri.nz/mon26/