「胸の中にて鳴る音あり」

書評です〜。

【書評】
読書の楽しみの一つは自分とは違う他人の世界を覗けることだ。たまたま電車の向かい側に座っているような普通の人の日常を描く「胸の中にて鳴る音あり」(上原隆著)は、読後になんだか寂しい印象を残す。短いルポルタージュコラムに描かれる人物は、東大で70年間働く時計屋の主人だったり、引退した政治家だったり、普段はスポットライトを当てられる人ではない。しかし、普通の人というひとくくりの中にもそれぞれに人生のドラマがある。こんなに多様な人生観があり、世界観があるんだということも実感できる。電車の向かい側の人が、他人でいて他人ではなくなるような、そんな本だ。