冬季アジアモンスーンの指標

久しぶりの論文紹介の更新です。
地球惑星連合大会で会った人に最近紹介してないね、と言われてしまいました。。。
見ている人がいると思うとがんばろうと思いますね。

本日紹介の論文は連合大会の発表で知った北海道大学の山本さんたちの研究です。
なんと北大のたてものの屋根の上の雪から、植物のワックスを抽出し水素、炭素の同位体比からその植物の起源を調べた研究です。

有機地球化学も面白そうですね。

※植物ワックス:植物が蒸散をコントロールするために分泌する物質。

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n-アルカン、n-アルカン、n-アルカノール、n-アルカン酸などのバイオマーカー(分子化石)は陸上高等植物のワックスを起源とする。これらの有機物は、風によって簡単に葉から引きはがされ、エアロゾルとなる。また、ダストストームによって土から蒔き上げらたり、森林火災によって噴煙の中に混入したりして、遠くまで運搬される。
札幌の新しい雪のサンプルを使って、C22-C28のn-アルカン酸の水素同位体比(δD)、炭素同位体比(δ13C)を測定し、その起源を推定した。このサンプルには、植物由来のn-アルカン、n-アルカノール、n-アルカン酸が主に含まれていることが分かった。またそれと同時に札幌とロシアヤクーツクから得られた植物サンプルからもδD,δ13Cの値を測定し、雪のサンプルの結果と比較した。その結果、札幌の雪サンプルのδ13Cの値(-33~-28‰)は、札幌の植物サンプルの値(-35~-29‰)とほぼ変わらなかった。しかし、δDの値は雪のサンプル(-208~-148‰)に比べて札幌の植物サンプルの値(-72‰)よりも顕著に重くなっていることが分かった。加えて、本研究では札幌に到達するまでの風の軌道分析も行っている。これらの結果から、札幌の雪に含まれる植物由来のバイオマーカーは冬季アジアモンスーンによってシベリアや中国北東部から運搬されてきたことが示唆している。

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Long-range atmospheric transport of terrestrial biomarkers by the Asian winter monsoon: Evidence from fresh snow from Sapporo, northern Japan

Shinya Yamamoto, Kimitaka Kawamura, Osamu Seki
Atmospheric Environment 45 (2011) 3553-3560