2000年間の南方振動の記録

先日は、西赤道太平洋での温度躍層付近の水温復元から、過去のエルニーニョ南方振動(ENSO)の変動を復元する研究を紹介しましたが、今回は降水量から南方振動の復元を行っている論文を紹介します。

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エルニーニョ南方振動(ENSO)は、熱帯太平洋で大気と海洋が結合して起る気候現象である。現在、南方振動は西赤道太平洋と中央赤道太平洋の気圧の差を指標(SOI)としている。
エルニーニョが起る(SOI indexが負)ときには西赤道太平洋は雨が少なくなり、中央太平洋は逆に雨が多くなる。反対に、ラニーニャのときには(SOI indexが正)、西赤道太平洋は雨が多くなり、中央太平洋は雨が少なくなる。
今回は、すでに公表されたガラパゴスと西赤道太平洋の古気候、古海洋のデータを用いて、過去の南方振動の指標を作成した。

SOI indexは、そもそも気圧の差の指標だが、過去の降水量変動から作成されたこの過去のSOIの指標は、現在の観測結果がある時代のSOI indexとよく合う(相関係数 r=0.68)。

過去2000年のSOIの結果は、中世温暖期(AD1000〜1300年)にエルニーニョ的、小氷期(AD1400〜1800年)にラニーニャ的になっていたことが示された。

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まず、ENSOを議論する場合、熱帯収束帯(ITCZ)の変動影響に注意しなければいけないが、この論文ではITCZの影響の議論でされていなかったので、問題であると思う。

また、2日前に紹介した論文の結果とは整合的ではないことが分かる。
何をENSOの指標とするかによって、結果も異なることになる、ということに十分注意しなければならないということだろう。


A record of the Southern Oscillation Index for the past 2,000 years from precipitation proxies

Hong Yan, Liguang Sun, Yuhong Wang, Wen Huang, Shican Qiu & Chengyun Yang

nature geoscience, 2011, SEPTEMBER, pp611 - 614, doi:10.1038/ngeo1231