過去150年間の沿岸域での化学肥料の影響

サンゴに関する論文。


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人間活動による沿岸の富栄養化や汚染の原因を評価するのに適した道具として、窒素同位体比が用いられてきた。窒素の起源によって窒素同位体比の値が異なり、例えば下水だと8‰、農業用の化学肥料だと0‰という値をもつ。
特に、サンゴ骨格中に残った有機物の窒素同位体比は、沿岸域を調べるのに適した材料だとされてきた。
この論文では、カリブ海で採取され、博物館に保管されていた八放サンゴを用いて、過去150年間のカリブ海での地域的な窒素同位体比の変動傾向を調べている。
その結果、窒素同位体比は1850年以降、減少を続けていた。窒素同位体比を減少させる要因を検証していくと、この減少の一番の原因は、化学肥料の使用が増加してきたことだった。
一方で、観測データからは、下水の影響も増加しており、特に1985年以降は理論的には窒素同位体比が増加するはずだが、このカリブ海のサンゴの結果からは窒素同位体比は減少し続けており、下水の影響は見られなかった。
これはつまり、今まで通りの下水と化学肥料の寄与率を推定するシンプルなモデルでは、下水の影響を過小評価してしまう危険性があることを示唆している。
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しかし、具体的にどのような原因で、サンゴに下水の影響が表れなかったのか、については詳しく議論されていない。


Caribbean octocorals record changing carbon and
nitrogen sources from 1862 to 2005

BAKER et al.

Global Change Biology, 2010, 16, 2701-2710