洞窟の中で

古気候(過去の気候変動を解明する学問)の分野で、今最もホットなものの一つが石筍(せきじゅん:Stalagmite)です。

石灰の岩が浸食されてできた鍾乳洞の中に、にょきにょき筍のように生えてくるのが石筍。日本には、有名な鍾乳洞がいくつもあり、私も鍾乳石や石筍がたくさん生えた鍾乳洞を見学したことがあります。

そんな石筍ですが、1960年代に古気候の分野に応用できるというアイデアがだされ、今では重要な過去の指標となるものの一つとして認識されています。

そもそも、なぜそんなにょきにょきと石灰の岩ができるのかということを考えだすと、植物の呼吸から話が始まります。

植物が呼吸することで、根っこから二酸化炭素を土の中に出すことがまず第一ステップです。そうすると土の中に二酸化炭素がたまっていきます。空気中の二酸化炭素濃度より、100倍も濃い二酸化炭素が土の中にはたまるそうです。土の中の二酸化炭素が水に融けることによって、水は二酸化炭素を多く含むので、鍾乳洞の石灰を溶かしていきます。この時点で、水は二酸化炭素と石灰のカルシウムイオンをたくさん溶かしていることになります。しかし、その水が鍾乳洞の空気に触れると、二酸化炭素を放出し、そうすると溶解度が下がるので、カルシウムイオンが溶けきれなくなり、外にでてきたのが鍾乳石や石筍だというわけです。

石筍には、1万年、10万年というとてつもなく長い時間をかけて成長するものがあるので、古気候の研究に利用されてきたという背景があります。
自然が長い時間をかけて作りあげてきたものを使う以外に過去の気候を知る術はありません。
石筍は、温度や湿度によってもその色が変わるとされていて、1年ごとにシマシマができたりもします。
まさに「時を刻むもの」ですね。


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※語句

鍾乳石(stalactite)は、洞窟の上からつららみらいに生えてくる石灰質の石。
石筍(stalagmite)は、洞窟の下からにょきにょき生えてくる石灰質の石。