有孔虫の殻の詳細な元素分布

今日の紹介論文はマニアックです。
私の研究でも使っているように、有孔虫の炭酸塩の殻に含まれるマグネシウム(Mg)は過去の水温を復元する水温計として使われてきました。
これまで、Mgは殻に均一に分布しているのではなく殻の表面に濃集していることがこの論文も含めた研究から明らかになってきました。
2003年の論文でちょと古いんですが、殻の元素分布の基礎データが出された論文なので紹介したいと思います。

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浮遊性有孔虫の4種類、G. ruber, G. sacclifer, N. durtrei, N. pacydermaの殻の元素の分布をレーザーアブレーション 誘導結合プラズマ質量分析計で0.15マイクロメートルの間隔で測定した。
測定した元素は、Mg/Ca, Mn/Ca, Zn/Ca, Ba/Ca, Sr/Caである。
Sr/Caは均一に分布していることがわかったが、その他の元素は殻の表面に濃集していることがわかり、種ごとに分布の仕方も違っていた。
G. ruberについては、表面をのぞけばMg/Caの分布は均一であった。この結果は、この種が表層に生息しているとの生態学的な観測とも一致する。
G. sacculiferについては、reproductionを行う直前に固い殻(gametogenic calcite)を作ることが知れているが、そのgametogenic calciteのMg/Caは低かった。この低いMg/Caの値は、水温に換算すると3℃から7℃ほど内側の殻に比べて低いが、これは成長するにつれて水深が深いところに生息環境を変えることと一致する。水深にすると70−100m水深まで移動することになる。
N. dutertreiについては、Mg/Caはより複雑な分布をしていた。この結果から、最初は温度躍層上部からより暖かい表層へ、そして最後にはより冷たい温度躍層基部へと生息環境が移動することが示唆された。
このようなN. dutertreiの生息環境の違いは、個体差も顕著であった。このことは、換算式を作る際、またデータを解釈する際に気をつけなければならないことだ。

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Mg/Ca variation in Planktonic foraminifera testes: implications for reconstruction paleo-seawater temperature and habitat migration
S. Eggins, P. Deccker, J. Marshall
Earth and Planetary Science Letters 212 (2003) 291-306