遠く離れた地域が関係している

7月のnature geoscience に中国の石筍のシミュレーションの論文がでていました。

7月末に参加したINQUA(第四紀連合国際大会)のプレゼンテーションでもこの論文が引用されていたものもあり、注目度の高い論文になりそうです。

中国の石筍の酸素同位体比の解釈についての論文ですが、これまで考えられてきた夏の降水量の指標だという解釈に疑問を呈しています。具体的には、最終氷期のハインリッヒイベントに石筍のサイトが降水量が低下していたか?また、低下していないなら何が原因で同位体比が重くなるシフトが起こったのかをシミュレーションで明らかにしようとしています。

その結果、ハインリッヒイベント時には中国の夏の降水量は減少しておらず、インドモンスーンが支配する地域において降水量の顕著な減少が見られます。夏に中国に到達する水蒸気のほとんどはインド洋起源なので、そこで蒸発した重い酸素同位体比をもった水蒸気が中国まで運ばれ重い酸素同位体比が石筍にも記録された、という結論です。

これまで中国の石筍グループが主張してきたのは、石筍は夏の降水量の変動を記録しているということでした。しかし、その根拠になっているものは、数年間の降水量と降水の酸素同位体比の観測結果でした。しかし、中国においてどのようなメカニズムで夏の降水の酸素同位体比が変わり、それがどのように石筍に反映されるか、中国の石筍の場合には他の地域ほどきちんと検証されているとは言えなかったと思います。

これからさらに観測のデータが公表されて、きちんと検証されていくのだと期待していますが、中国の石筍の酸素同位体比の解釈についてまだまだ議論が続きそうですね。

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論文
Chinese stalagmite δ18O controlled by changes in the Indian monsoon during a simulated Heinrich event

Francesco S. R. Pausata, David S. Battisti, Kerim H. Nisancioglu & Cecilia M. Bitz

Nature geoscience July 2011, Volume4
doi:10.1038/ngeo1169

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石筍の観測の方の研究者、JohnsonさんによるNews and Viewsの記事も分かりやすいです。
Long-distance relationship

Kathleen R. Johnson

Nature geoscience July 2011, Volume4
doi:10.1038/ngeo1190